ダークゾーン 貴志祐介
私、貴志祐介さんの作品が好きでよく読むんです。
貴志さんといえば、身の毛のよだつホラー小説から緻密に計算されたミステリー小説、さらには目まぐるしく展開して息もつかせないエンタメ小説とたくさんの作品がありますね。
ちなみに私は『新世界より』を読んでその面白さにハマって以来『黒い家』『十三番目の人格ISOLA』『悪の教典』『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』『青の炎』『雀蜂』『硝子のハンマー』『狐火の家』『鍵のかかった部屋』さらにはエッセイ『極悪鳥になる夢を見る』まで読んでいます。
というか、ここ数年の間に出た新作と今回読んだ『ダークゾーン』以外はほとんど読んでいるというはまりっぷり…
こう並べ立てると自分でもちょっとびっくりしますね。まあ、面白いから読んでしまうんです。
むしろ、なぜ『ダークゾーン』を今まで読んでいなかったのかというと…
単純に難しそうだったから
「将棋やチェスのようなボードゲームを人間が駒となってデスゲームを展開する」という情報だけでは読み進めていく自信がなかったんです。
将棋やチェスは駒の動きや大まかなルールは知っていましたが、戦略の部分はさっぱり。
あとは、派手な戦闘を小説家で読むとだいたい主人公と敵の位置関係や動きがわからなくなって、いつの間にか勝敗がついているということが今まで多かったんですよね。
そのため、バトルがメインのこの作品はなんとなく手に取らずにいました。
でも、今回Kindle Unlimitedにあったので読んでみました。
感想
実際に読んでみるとかなり読みやすかったです。
物語の冒頭からいきなり異空間(ダークゾーン)の中で戦闘が始まるので最初は少し戸惑いましたが、順序立ててルールや人物も紹介されていくので主人公たちとともにゲームの世界に入っていく形になりました。
また、登場人物たちのダークゾーン内での駒としての役割は将棋やチェスと似てはいるものの、全然違うものになっているので元ネタのボードゲームの知識がなくても楽しめるようになっていました。戦略についてもわかりやすく説明がされるため置いてけぼりになることもなかったです。
それにしても、架空のゲームのルール内で多種多様な戦略を見せられるのは驚きでした。極限状態で相手の次の手を読み合う。この読み合うところをわかりやすくエンタメとして文章にさせているところがすごいところ。
あとは、それぞれのバトルの間には現実のパートが挟まれているのですが、これもまた面白い。駒として登場している人たちが現実ではどういう人物なのかがわかるのです。そして、主人公の抱える闇やダークゾーンに関わりそうなヒントが少しずつ明かされていって…
こんな感じで読み始めるとあっという間に読んでしまいました。久しぶりに上下巻に分かれた長編小説を読みましたが、面白かったです。
『こころ』 夏目漱石
言わずと知れた名作、『こころ』
教科書で読んだ人も多いでしょう。
この小説をどう読みましたか?堅苦しい文学小説?
私も読む前は堅い文学小説と思って構えていたのですが、実際読んでみると面白い小説でした。
けっこう、ミステリーというかエンターテイメント性があるような…
実際、「こころ」という小説は1914年に新聞連載されていたものですし、インターネットはもちろんテレビもラジオもない当時の人達を楽しませるためにも書かれているように思います。
ただ、ミステリーとして読むには多くの人が教科書で最後のオチを知ってしまっているので楽しさが半減しているなあと。
私はいつもこのオチの部分だけ教科書で読ませてしまうのはもったいないと思ってしまいます。
感想
私がこの小説を読んだのは高校生の頃。ちょうど来週から現代文の授業で読み進めていこうというタイミングでした。
教科書に載っているのはもちろん下の「先生と遺書」の最後の部分。
このままではオチだけ知ることになると思い慌てて読み始めました。
上 「先生と私」
読み始めてみると「先生」の陰のある雰囲気と話したがらない過去が気になってどんどん読み進めることに。
- 誰のものかは語られない墓参り
- いつも冷静なのに恋愛についてはあつくなるところ
- 世捨て人感
どうも過去に何かがあったらしい雰囲気。まさか過去に人でも殺しているサスペンス展開なのかと読んでいる途中は思ったぐらいでした。
こういうところが少しミステリー要素があるように感じました。
「私」が「先生」に惹かれるのもわかる気がします。
中 「両親と私」
ここでは父の病により実家に帰った「私」について書かれています。
大学を卒業してとくに就職先も決まっていない「私」に将来のことを心配する親。
田舎でずっと暮らしてきた両親と価値観が変わっていて違和感を感じたり、のんびり過ごす実家に飽きたり。
そうしているうちに時代が大きく変わる。
この明治という時代が終わったという雰囲気は当時の人達でないと味わえないものだなあと読むたびに思いますね。
最初に読んだ頃は令和のれの字も出ていない平成の頃だったので、もし平成という時代が終わったときにこれほどまでの変化が個人に訪れるものなのかと思ったものです。
しかし、明治という時代を考えれば文明開花やら日清戦争・日露戦争と日本にとっては濃厚な時代になっています。これほどの出来事があったならひとつの時代が終わることに喪失感もあるように思います。
こういう当時の空気感を味わえるところもこの小説の好きなところです。
下 「先生と遺書」
一番有名なところですよね。「先生」からもらった手紙。
いくら「先生」の過去を知りたいと「私」が思っていてもなんというタイミングでこんな手紙が届くんだと思いました。
ここで「先生」の過去が明かされていき、「先生」がなんとも言えない独特な雰囲気をもつ理由がわかっていきます。
この「先生と遺書」では「先生と私」から謎だった「先生」の過去はわかるし、きっかけとなった出来事の当事者である「k」の心情も読んでいけばわかるのですが…
ただ、私はどうも「お嬢さん」の気持ちというものが気になって仕方がないのです。なかなか何を考えているのか分かりにくいような…
それに、当事者の1人であるはずなのにずっと置いてきぼりになっているし。
本を読み終わった後いったい先生の奥さんはどうなるのかと気になってしまいます。
この小説は何度も読んでいますが、読むたびに新しい発見や感じ方をします。何度読んでも楽しめるのが名作というものなのかもしれませんね。
時をかける少女 筒井康隆
何度も映像化されている『時をかける少女』
初版は1967年とかなり古いSF小説。世代によって想像する映像作品が違うらしいですが、私は細田守監督のアニメ映画版を思い浮かべます。
以前から気にはなっていたこの小説。
今回はKindle Unlimitedにあったので読んでみました。
感想
原作小説の初版は1967年とかなり古い作品。この古さで読むのを躊躇していたことを後悔しました。
もちろん時代を感じる部分はあります。主人公の名前は和子ですし。出てくる言葉も少し古くさい。
でも、何度も映像化されるだけの魅力がありますね。
物語の根っこの部分は時代を経ても楽しめると感じました。
例えば
- 主人公がタイムリープの能力を身につけてしまい悩んでしまう場面
- 大切な人のことを忘れてしまう切なさ
- 人を待つことになるもどかしさ
青春小説として普遍なものかと思います。
また、SF部分も全然古さを感じない。
- 未来世界では科学技術が進み、学校教育が高度化
- 長くなった教育期間により晩婚化が進む
むしろ、今現在や近未来を予見しているかのようですね。
この「時をかける少女」今回読み始めるまで知らなかったのですが、短編だったのですね。何度も映像化されているということだったのでてっきり長編だと思っていました。短編でサラッと読める分、最後の余韻がより際立っているように感じました。
映画版との違い
いくつか違う点があったのですが、印象的だったのは主人公がタイムリープの能力を持ってしまったことに悩んでいたところです。
映画版の主人公は能力に気がつくとどんどんタイムリープしていきますが、小説版では戸惑い悩んで友人たちに思い切って相談します。そして、変な能力を持って人間じゃなくなったような目でまわりから見られることを嫌がっています。
私がもしもタイムリープの能力を身につけたら能力を活用しようとは思わずに「変な力を持ってしまった」と心配しそうだなあと思うので、小説版の方が共感できました。
表題作の「時をかける少女」のほかの2篇
理由はよくわからないけれど、なんだか怖いと感じるもの。その恐怖を克服しようと中学生の男女が原因となった出来事を探す「悪夢の真相」
気がつくと自分が元いた世界と少し違った世界にきてしまった高校生が主人公の「果てしなき多元宇宙」
どちらも面白い作品でした。